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饒舌映画ブログ

誰もが、映画をめぐってひたすら饒舌であったときの快楽を知っている。同時に、その果てに待ち受けている徒労の実感をも体験している。映画によって言葉を根こそぎ奪われた瞬間の無上の甘美さをたぶん、あなたは知っているだろう。そして、その沈黙にいつまでも耐え続けることの息苦しさをも知っているに違いない。欠語と饒舌のいずれを選ぼうとも、救われたためしなどかつてありはしなかったのだ。――『リュミエール』誌 《創刊の辞》より

テン年代の映画 ベスト・リスト(2010-2014年)

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ゼロ年代のベスト・リストが大変なご好評をいただいた。

 

 

では、一方で、テン年代はどうなのだろう。ゼロ年代に決定的に進行した状況の細分化や興味の拡散がきれいに収束した、などという話は聞いたことがない。われわれの日常生活や、あるいは身体性にまで深く食い込むようになったかに見えるソーシャルメディアの普及は、細分化や分散をむしろ固定化しているのではないか。初めてツイッターにログインした時の「何かが変わるのかもしれない」という青臭いトキメキのようなものが今や懐かしい。にも関わらず、以下のリストを眺めてもらえば分かるように、少なくとも映画においては、「中心」のようなものが存在しているようにも思える。

 

しかし、これが本当に「中心」なのかは大いに疑わしい。ソーシャルメディア的な集合知の存在が、ある種のポピュリズムとして機能し、各メディアの方向性をどこかで決定づけているのでは、という気がしないでもないからだ(もちろん、まだディケイドの折り返し地点だから、単に分母が少ないこともあるだろうが)。政治学の分野で、対立する政党が市民の「声」を気にしすぎるあまりに個性と争うべき論点を失っていく、みたいな理論があったけれども、実際、以下に並べてみた各メディアの間では、示し合わせた10本を並べ替えるだけの作業が横行している風に見えなくもない。

 

ともかく、本題のリストに移ろう。この「中心を持った収束的なリスト群」の存在が、テン年代の映画が見せた満場一致の充実の証しだと祈りながら・・・。なお今回も、リストの最後尾に「海外メディアのトップ10には選ばれていないが、必見の作品として個人的に推しておきたい5本」をピックアップしたので、あわせてご笑覧いただければと思う。メディアのリストも随時、追加予定である。

 

***

 

●The A.V. Club

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 Pop culture obsessives writing for the pop culture obsessed.

 

 

10.『ビフォア・ミッドナイト』(Before Midnight, 2013)リチャード・リンクレイター

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9.『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network, 2010)デヴィッド・フィンチャー

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8.『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(Under The Skin, 2013)ジョナサン・グレイザー

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7.『籠の中の乙女』(Dogtooth, 2009)ヨルゴス・ランティモス

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6.『6才のボクが、大人になるまで。』(Boyhood, 2014)リチャード・リンクレイター

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5.『アクト・オブ・キリング』(The Act Of Killing, 2012)ジョシュア・オッペンハイマー

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4.『フランシス・ハ』(Frances Ha, 2013)ノア・バームバック

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3.『ツリー・オブ・ライフ』(The Tree Of Life, 2011)テレンス・マリック

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2.『別離』(A Separation, 2011)アスガル・ファルハーディー

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1.『ザ・マスター』(The Master, 2012)ポール・トーマス・アンダーソン 

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●Cahiers du Cinéma(カイエ・デュ・シネマ

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Revue mensuelle de cinéma.

 

※5年単位でのリストを発表していないため、2010~2014年までの各年の年間ベストから、1位の作品のみ抽出。

 

2010.『ブンミおじさんの森』(Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives, 2010)アピチャートポン・ウィーラセータクン

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2011.『ローマ法王の休日』(We Have a Pope, 2011)ナンニ・モレッティ

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2012.『ホーリー・モーターズ』(Holy Motors, 2012) レオス・カラックス

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2013.『湖の見知らぬ男』(Stranger by the Lake, 2013)アラン・ギロディ

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2014.『P'tit Quinquin(原題)』(P'tit Quinquin, 2014)ブリュノ・デュモン

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●CRAVE

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Culture For The Curious.

 

 

10.『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(Scott Pilgrim vs. The World, 2010)エドガー・ライト

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9.『ステップ・アップ3』(Step Up 3D, 2010)ジョン・M・チュウ

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8.『スプリング・ブレイカーズ』(Spring Breakers, 2012)ハーモニー・コリン

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7.『ビフォア・ミッドナイト』(Before Midnight, 2013)リチャード・リンクレイター

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6.『ツリー・オブ・ライフ』(The Tree Of Life, 2011)テレンス・マリック

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5.『別離』(A Separation, 2011)アスガル・ファルハーディー

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4.『アデル、ブルーは熱い色』(Blue Is The Warmest Color, 2013)アブデラティフ・ケシシュ

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3.『ホーリー・モーターズ』(Holy Motors, 2012)レオス・カラックス

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2.『セッション』(Whiplash, 2014)デミアン・チャゼル

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1.『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network, 2010)デヴィッド・フィンチャー

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●The Dissolve

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 A playground for movie-lovers. Films both new and old dissected in obsessive detail.

 

 

10.『ホーリー・モーターズ』(Holy Motors, 2012)レオス・カラックス

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9.『フランシス・ハ』(Frances Ha, 2013)ノア・バームバック

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8.『グランド・ブダペスト・ホテル』(The Grand Budapest Hotel, 2014)ウェス・アンダーソン

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7.『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(Under The Skin, 2013)ジョナサン・グレイザー

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6.『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(Inside Llewyn Davis, 2013)コーエン兄弟

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5.『別離』(A Separation, 2011)アスガル・ファルハーディー

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4.『トスカーナの贋作』(Certified Copy, 2010)アッバス・キアロスタミ

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3.『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network, 2010)デヴィッド・フィンチャー

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2.『her/世界でひとつの彼女』(Her, 2013)スパイク・ジョーンズ

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1.『6才のボクが、大人になるまで。』(Boyhood, 2014)リチャード・リンクレイター

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●The Film Stage

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Your Spotlight on Cinema.

 

 

10.『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(Inside Llewyn Davis, 2013)コーエン兄弟

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9.『ザ・マスター』(The Master, 2012)ポール・トーマス・アンダーソン

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8.『トスカーナの贋作』(Certified Copy, 2010)アッバス・キアロスタミ

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7.『愛、アムール』(Amour, 2012)ミヒャエル・ハネケ

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6.『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(The Wolf of Wall Street, 2013)マーティン・スコセッシ

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5.『別離』(A Separation, 2011) アスガル・ファルハーディー

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4.『her/世界でひとつの彼女』(Her, 2013) スパイク・ジョーンズ

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3.『ホーリー・モーターズ』(Holy Motors, 2012) レオス・カラックス

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2.『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(Under The Skin, 2013)ジョナサン・グレイザー

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1.『ツリー・オブ・ライフ』(The Tree Of Life, 2011)テレンス・マリック

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●Indiewire

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Film. Biz. Fans.

 

 

10.『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(Inside Llewyn Davis, 2013)コーエン兄弟

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9.『預言者』(A Prophet, 2009)ジャック・オーディアール

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8.『インヒアレント・ヴァイス』(Inherent Vice, 2014)ポール・トーマス・アンダーソン

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7.『トスカーナの贋作』(Certified Copy, 2010)アッバス・キアロスタミ

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6.『アデル、ブルーは熱い色』(Blue Is The Warmest Color, 2013)アブデラティフ・ケシシュ

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5.『ホーリー・モーターズ』(Holy Motors, 2012)レオス・カラックス

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4.『アクト・オブ・キリング』(The Act Of Killing, 2012)ジョシュア・オッペンハイマー

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3.『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(Under The Skin, 2013)ジョナサン・グレイザー

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2.『籠の中の乙女』(Dogtooth, 2009)ヨルゴス・ランティモス

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1.『別離』(A Separation, 2011)アスガル・ファルハーディー

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●Paste Magazine

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SIGNS of LIFE in MUSIC, FILM & CULTURE.

 

※5年単位でのリストを発表していないため、2010~2014年までの各年の年間ベストから、1位の作品のみ抽出。

 

2010.『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network, 2010) デヴィッド・フィンチャー

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2011.『ツリー・オブ・ライフ』(The Tree Of Life, 2011)テレンス・マリック

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2012.『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(Life of Pi, 2012)アン・リー

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2013.『ビフォア・ミッドナイト』(Before Midnight, 2013)リチャード・リンクレイター

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2014.『6才のボクが、大人になるまで。』(Boyhood, 2014)リチャード・リンクレイター

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●Rolling Stone

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※5年単位でのリストを発表していないため、2010~2014年までの各年の年間ベストから、1位の作品のみ抽出。

 

2010.『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network, 2010) デヴィッド・フィンチャー

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2011.『ドライヴ』(Drive, 2011)ニコラス・ウィンディング・レフン

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2012.『ザ・マスター』(The Master, 2012)ポール・トーマス・アンダーソン

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2013.『それでも夜は明ける』(12 Years a Slave, 2013)スティーヴ・マックイーン

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2014.『6才のボクが、大人になるまで。』(Boyhood, 2014)リチャード・リンクレイター

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●Sight & Sound

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The international film magazine, since 1932.

 

※5年単位でのリストを発表していないため、2010~2014年までの各年の年間ベストから、1位の作品のみ抽出。

 

2010.『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network, 2010) デヴィッド・フィンチャー

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2011.『ツリー・オブ・ライフ』(The Tree Of Life, 2011)テレンス・マリック

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2012.『ザ・マスター』(The Master, 2012)ポール・トーマス・アンダーソン

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2013.『アクト・オブ・キリング』(The Act Of Killing, 2012)ジョシュア・オッペンハイマー

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2014.『6才のボクが、大人になるまで。』(Boyhood, 2014)リチャード・リンクレイター

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●Slant Magazine

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Tell all the truth but tell it slant.

 

※5年単位でのリストを発表していないため、2010~2014年までの各年の年間ベストから、1位の作品のみ抽出。

 

2010.『籠の中の乙女』(Dogtooth, 2009)ヨルゴス・ランティモス

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2011.『トスカーナの贋作』(Certified Copy, 2010)アッバス・キアロスタミ

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2012.『これは映画ではない』(This Is Not a Film, 2011)ジャファル・パナヒ/モジタバ・ ミルタマスブ

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2013.『her/世界でひとつの彼女』(Her, 2013) スパイク・ジョーンズ

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2014.『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(Under The Skin, 2013)ジョナサン・グレイザー

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●Tiny Mix Tapes

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Tiny Mix Tapes is an online music and film magazine with news, reviews, features, and hot replica watches.

 

※5年単位でのリストを発表していないため、2010~2014年までの各年の年間ベストから、1位の作品のみ抽出。

 

2010.『籠の中の乙女』(Dogtooth, 2009)ヨルゴス・ランティモス

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2011.『ツリー・オブ・ライフ』(The Tree Of Life, 2011)テレンス・マリック

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2012.『ニーチェの馬』(The Turin Horse, 2011)タル・ベーラ

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2013.『スプリング・ブレイカーズ』(Spring Breakers, 2012)ハーモニー・コリン

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2014.『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(Under The Skin, 2013)ジョナサン・グレイ

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●WhatCulture

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Entertaining since 2006.

 

 

10.『ナイトクローラー』(Nightcrawler, 2014)ダン・ギルロイ

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9.『007 スカイフォール』(Skyfall, 2012)サム・メンデス

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8.『her/世界でひとつの彼女』(Her, 2013) スパイク・ジョーンズ

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7.『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(Birdman, 2014)アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

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6.『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(Inside Llewyn Davis, 2013)コーエン兄弟

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5.『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network, 2010)デヴィッド・フィンチャー

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4.『ザ・マスター』(The Master, 2012)ポール・トーマス・アンダーソン

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3.『6才のボクが、大人になるまで。』(Boyhood, 2014)リチャード・リンクレイター

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2.『私が、生きる肌』(The Skin I Live In, 2011)ペドロ・アルモドバル

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1.『インセプション』(Inception, 2010)クリストファー・ノーラン

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●海外メディアのトップ10には選ばれていないが、必見の作品として個人的に推しておきたいテン年代の5本

 

『サウダーヂ』(Saudade, 2011)富田克也

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ソフト化されておらず、鑑賞機会が非常に限定されているこの35ミリを僕は一度しか見ていないが、その薄れかけた記憶を掘り起こした時にまず思い出されるのは、俳優、土地、建物、文化風俗その他すべての被写体が漂わせる渇いた「空気」のようなものである。それは、誰しもが共感可能だろうとあらかじめ見越して撮られたような「ありふれた日常」としての被写体ではなく、「現代日本の地方都市」の素肌をカメラに収めてやろう、という静かな野心の矛先としての被写体であることに間違いないだろう。が、富田克也監督は、「さあこれから地方の暗部を語ってやるぜ」という社会派的な自意識だけでこれを撮ったわけではあるまい。ちょうどジャ・ジャンクー監督の『青の稲妻』や『長江哀歌』といった作品がそうであったように、「たまたま身近にあった映画的な被写体」として、地方の荒廃をある意味では巧みに、ある意味では仕方がなく利用しているのであり、その曖昧さがむしろ映画の美点となっている。また、昼は現場で働き、夜は仲間たちとヒップホップのライブに打ち込むラッパーの男が、付き合いで行ったスナックで割り勘させられた帰り道に見せる即興のラップを観てわれわれは、70年代以前には存在しなかったラップといういまだ未知数の「アクション」が、これほどまでに美しくフィルムに収まってしまった事実に狼狽え、どうして入江悠監督や園子温監督にこれができないのだろうと首を傾げることになるだろう。あるいは、ホステスとの逃避行という空しい夢を見る男が夜の商店街で遭遇する幻のパレードは、今となって考えれば、フェデリコ・フェリーニの傑作『カビリアの夜』の最後で、ジュリエッタ・マシーナが遭遇した幻の楽隊と同種のものだろうと思う。映画は続いているのだ。

 

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『メゾン ある娼館の記憶』(House of Tolerance, 2011)ベルトラン・ボネロ

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 煽りのコピーには勇ましいことがいろいろと書き連ねてあるが、では、この『メゾン ある娼館の記憶』という映画が、性風俗産業で働く女たちの尊厳や、そのたくましさを肯定的に描いた作品なのかといえば、答えはノーではなかろうか。ここでの女たちは、思い思いに夢を見ては「今だけさ、今にこんなところ出て行ってやるさ」と意気込んでこそいるが、実際にはより大きな仕組みの中で搾取され、男のエゴを受け止め、心身ともに傷付けられる無力な存在に過ぎない。ベルトラン・ボネロ監督は、物語の流れとしても彼女たちに救いの手は差し伸べておらず、各々が抱えているのであろう貧困(それは固定化された格差の産物かもしれない)や、教育の欠如が具体的なエピソードとともに語られることもない。そう、ここでの女たちはひたすら交換可能な、いわば「指示代名詞としての彼女たち」なのであり、その儚さこそが美しい、と言えるのは、僕が彼女たちに欲望をぶつける側の性に属する人間だからだろうか。一方、劇中で一人だけ、口を裂かれ、クリント・イーストウッド監督の『許されざる者』での娼婦と同じような「傷」をその顔面に負い、「交換不可能」な存在になる女がいるのだが、働けなくなり雑用係に甘んじていた彼女が、特権階級の悪魔的な集いに「見世物」として招かれ、それを理解しつつも「見世物」として見事に舞って見せるシークエンスには、彼女の人生における最低の屈辱と最大の栄光が同居しているようで、涙を流さずにはいられなかった。その意味であの場面は、ロバート・アルドリッチ監督の『カリフォルニア・ドールズ』における最後の入場シーンや、ジョン・カサヴェテス監督の『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』におけるオーディションのシーンに匹敵する名場面である。

 

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『Playback』(2012)三宅唱 

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誤解を招くような言い方をするなら、この『Playback』という映画は、決して「すごい」映画ではない。例えば、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』が上演された時に巻き起こったような、さあ「すごい」傑作が誕生したぞ、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』を頂点とするSF映画のヒエラルキーがひっくり返ったぞ、というような強気な態度に人を変えてしまうような類の作品ではない。むしろ、「すごい」映画だったのかよく分からず、それどころか内容的にどういう映画だったのかいまいち自信が持てないので、とりあえず証人として、身近な友人・知人らに良かったら観てみてくれと頼んで回りたくなるような、そんな作品である。実際のところ、僕はこの作品を、地元の映画祭の演目として上演されているのを地元のシネマテークで観たのだが、劇場を出たとき、「狐につままれる」という言葉の意味をそこで初めて理解したくらいだ。ライターが苦し紛れに重宝する紋切り型の典型「白昼夢のような」という形容も、ああ本来はこういう時に使うのだと初めて理解した。ドラマティックな物語のアップダウンがあるわけでもなく、エフェクトの利いたタイムスリップの描写があるわけでもない。かと言って、アンチ・ドラマとしての抵抗の素振りもなく、チープなインディーズ映画で終わって満足する連中が撮っているようにも思えない。ただ、どう見ても十代には思えない村上淳が学ランを着て画面に登場すれば、「ああ、村上淳が学ランを着ているな」と見たとおりのことを認識し、親切な状況説明などある筈もないモノクロの35ミリを見つめながらそんなことを何度か繰り返しているうちに、「ああ映画っておもしれえな」という結論に至ることができる、そんな不思議な映画である。

 

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『わたしはロランス』(Laurence Anyways, 2012)グザヴィエ・ドラン 

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誰しもが、もはや純粋なメロドラマなど撮れないと信じて疑わない2010年代の今日、ひとりの美しい顔を持つゲイの青年が、荒野と化したメロドラマのいばら道を、王様のような態度で歩いてくる。誰しもが、彼を止めようと言葉を発しかける。「坊や、やめておきなさい。そちらは行き止まりよ」と。しかし、彼の確信に満ちた態度に圧倒され、彼の長編『わたしはロランス』を試しに観てみると、メロドラマの困難さは映画史的な問題ではなく、あくまでもそれに挑んできた映画人たちのセンスと才能の問題に過ぎなかったのだということを、理解するはめになるだろう。当事者としてのある種の「特権」を行使し、LGBTという題材をファッショナブルに消化する態度には疑問の声もあるだろうが、しかし、LGBTを題材とするこれまでの映画がどこか社会的なシリアスさから逃れられなかったのだとすれば、現実の世界をはるかに見下しながら、ひたすらポップで、オシャレで、唯我独尊とも言える美意識が炸裂するメロドラマに仕上ってしまったこの『わたしはロランス』を、僕は否定できそうもない。しかも、この映画は、「男と女が車に乗ってトラブルから逃げる」という、フリッツ・ラング監督の『暗黒街の弾痕』やニコラス・レイ監督の『夜の人々』に連なる、映画史的に極めて正統的なポーズさえ取って見せるのである。しかし、警察に追われている訳ではないこのドラマ映画においては、逃げると言っても「何から?どこへ?」という疑問が残らざるを得ず、ここでの「世界の果てへの旅」は、女の決断によってあっさりと中断させられる。「ここではないどこか」など存在しない、という現実を改めて重く受け止めつつ、二人はどうして世界の果てまであのまま歩いて行ってしまうことができなかったのかと、われわれは未練がましく悔やみ、彼ら・彼女らの「その後」がどうか健やかなものであってくれと、ただ無力に祈るほかない。

 

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『罪の手ざわり』(A Touch of Sin, 2013)ジャ・ジャンクー

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ジャ・ジャンクー監督の作品は、本作を含めて5作目しか鑑賞したことがないのだが、その中の相対評価ということで言えば、間違いなくこの『罪の手ざわり』が最高傑作ということになろう。ゼロ年代前後の中国で実際に起きたといういくつかの殺人や自殺を点描しながら、刑法上の「罪」ではなく、より広義の、人類としての「罪」を描くという主題の設定もなかなか重く、見終わった頃には、彼ら・彼女らを救えなかったわれわれもまた遠い加害者の一人なのだという「罪の手ざわり」がリアルに感じられる傑作である。「しかし」と、この結論を逆説で受け止めたい。人類は、これほどまでの「完璧さ」を映画に求めているのだろうか、と。あるいは、映画は、これほどまで「完璧に」撮ってもらうことを、人類に求めているのだろうか、と。画面の構図、カメラのアングル、被写体との距離、光の当たり具合・影のでき具合、音楽の選択と挿入のタイミング、そのすべてが「完璧」であり、しかも、それが最初から最後まで、すべてのカットで当然のように持続していくわけだ。それがあまりに自然に、当然のように持続するため、普段、さほど積極的には映画を見ないという人が見れば、いま目の前に広がる画面の持つ、目がくらむほどの「完璧さ」に気づくことすら困難かもしれない。その意味でジャ・ジャンクー監督は、もうこれ以上は「上」がない、という地点まで到達してしまったのかもしれない。その意味でも恐ろしい1本。どうかお見逃しのないよう。

 

 

≪THE END≫